シリーズ研修

発音に誤りがある ことばが吃る
ことばが増えてこない 音声言語がない
自分の思いや考えを伝えることが苦手 興味のあることはよく話すのに、会話は一方通行
ことばの遅れの状態を保護者にどう伝えるか
発音に誤りがある
 まりちゃんは5歳の女の子。元気はいいのですが、発音が悪く、「さかな」を「たかな」と言ったり、「にがした」を「にがちた」と言ったりします。その上、とても早口なので何を言っているのか聞き取れないことが多く、「もう一度言って」と聞き返すと逃げていってしまいます。
 ある日、まりちゃんはバケツを持って登園してきました。園に着くなり「てんてい ほら!おとうたんと かわでおたかなとったの。ちゅごいでちょ」と興奮ぎみに話しかけてきました。先生が「お父さんとお魚取ったの。すごいね。どうやって取ったの?」と聞くと、「うんとね、あみでとったの。ちいたいのは にがちたんだよ。」とうれしそうに話してくれました。それを横で聞いていたお母さんは「まりちゃん、もっとゆっくりしゃべらないと、先生分からないわよ」と注意しました。するとまりちゃんは、ちょっとふてくされてしまいました。先生はすかさず「そう、あみでとったの。小さいのを逃がしてあげたのはえらかったね」と言って、一緒に魚を水槽に入れに行きました。教室で、まりちゃんはお友達にも昨日の話をうれしそうに始めました。
【無理な言い直しはさせないで・・・】
 ことばや発音の発達には個人差があります。一般的には2歳頃にパ、バ、マやタ、ダ、ナ行の発音が正しくなり、3歳頃にカ、ガ、ハ行の音を正しく発音できるようになります。サ、ザ、ラ行やツの音は通常5〜6歳にかけて獲得される音なので、5歳でうまく発音できなくても、成長とともに自然に言えるようになることが多いようです。幼稚園に通う3〜5歳頃は、発音の学習をしている時期だと思って、余裕をもって見守ってあげて下さい。
 
発音に誤りがあっても、言い直しさせたり、正しい発音を無理に言わせるのではなく、話の内容をじっくり聞いてあげましょう。「おたかなとってきたの」と言っていても、「おさかなとってきたんだね。すごいな」と正しい発音で言って聞かせてあげればいいのです。無理に言い直しをさせると、「分かってもらえない」と話す意欲を失ってしまったり、劣等感をもつことにもなりかねません。発音のことを心配するより、話す楽しさを大切にしてあげましょう。
 なお、発音の誤りには、口の中の器官そのものに異常があったり、舌や唇の動かし方が不器用なために正しく発音できなかったり、きこえの問題や発達全般に遅れがあるという場合もあります。医療機関やことばの教室など専門の先生に相談してみるのもいいでしょう。
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ことばが吃る
 康ちゃんは5歳。みんなと元気に遊び、保育園が大好きです。よくお話をしてくれますが、「お、お、おはよう」のように最初の音を繰り返し、なめらかに話せません。でも、康ちゃんは気にしていない様子です。
 康ちゃんが、吃り出したのは3歳ぐらいからです。康ちゃんが言いにくそうにしているときは、「慌てなくていいんだよ」「もっとゆっくりお話してね」とことばがけをしてきましたが、吃音は良くなったり悪くなったりの繰り返しです。お母さんも康ちゃんの吃音を心配しています。
 先輩の先生に相談したところ、「康ちゃんが話したいという気持ちの方を大切にしてあげたら」というアドバイスを受けました。
 ある日、康ちゃんは登園するとすぐ、休日に水族館に行った話をしてくれました。
康ちゃん 「せ、せ、先生、水族館行ったよ。イ、イ、イルカさんがね。た、高いところまで、と、と、と、跳んだよ」
先  生 「イルカさんてすごいね。他にどんなお魚がいたの」
康ちゃん 「ウ、ウ、ウ・・・」
先生はしばらく待ちましたが、ことばが詰っていたので、「カニさんはいたかな」と助け舟を出しました。
康ちゃん 「いたよ」
先  生 「亀さんもいたかな」
康ちゃん 「いた、いた。お、お、大きいク、ク、クジラさんもいたよ」
 先生は、楽しそうに話す康ちゃんの話をゆったりと聞いて、答えやすいように問い返してあげました。康ちゃんは、自分の言いたいことを伝えると、友達と元気よく遊び出しました。
【聞き手側の姿勢が大切・・・】
 吃音の始まる時期には個人差がありますが、多くは2歳半から5歳くらいのうちに始まることが知られています。吃音の原因については、様々な研究が行われていますが、明確なものはなく、最近では複数の要因が重なり合っていると考えられています。幼児期の吃音は、4〜5割が自然に消失すると言われていますが、現在のところ、吃音の治る子どもと治らない子どもをきちんと判断することはできません。したがって、吃音がみられた場合、どのようなお子さんであっても経過観察と子どもへの対応を調節することが重要です。子どもに言い直しさせても吃音は治りません。それよりも言い直しをさせられる時の子どもの心境を考えると、言い直しは吃音に悪い影響をを与えます。また、「もっとゆっくり」「落ち着いて」などの注意を与えたりすると子どもはますます話しづらくなり、話すことを避けようとしてかえって状態を悪くさせることになります。話し方に目を向けるのではなく、むしろ子どもの話そうとする気持ちを受け入れてあげることの方が大切です。
 矢継ぎ早に質問したり、子どもの話を先取りして言ってしまったりするようなことはせず、表情やしぐさなども含めた表現全体を受け止め、うなずきや相づちをしながら聞いてあげてください。
ことばが、少々詰っても、今の話し方を全面的に認めてあげることで、話すことの満足感や成就感を味わえるようになり、話すことへの自信が育ってくるのです。
 就学後も吃音の状態が続いているような場合は、発表や音読場面では学習上の配慮をしたり、子どもが自分の話し方に劣等感をもち、様々なことに消極的にならないように周囲から働きかけたりすることが必要になってきます。
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ことばが増えてこない
 かおりちゃんは5歳。話しことばの発達に遅れがある子どもです。最近、いやなことがあると「イヤ」とことばで言えるようになりました。また、こちらが言っていることはかなり理解できるようになってきています。でも、話しことばがなかなか増えていきません。
 自由遊びの時間です。かおりちゃんは友達がままごと遊びをしているのを部屋の隅から見ています。なかよしの久美ちゃんが誘ってくれると一緒に遊びに入れるのですが、まだ自分から仲間に入っていくことは難しいようです。そこで、先生はかおりちゃんと手をつないで、「いれて!」と言いながらままごと遊びの仲間入りをしました。久美ちゃんが粘土を丸めてお団子を作っています。それを見て、かおりちゃんも粘土を丸めて、お団子を作り始めました。先生も一緒にお団子と作り始めました。かおりちゃんが作ったお団子を持って、先生は「このお団子、とてもおいしそうだね」と話しかけました。かおりちゃんはうれしそうな表情を浮かべて頷きました。
 給食の時間です。かおりちゃんが牛乳を飲もうとしています。先生も一緒に牛乳を飲みながら、「牛乳、冷たいね」とゆっくり話しかけます。かおりちゃんは、「にゅうにゅう」と言いながら、おいしそうに牛乳を飲みました。となりのたかしくんがバナナを持って、食べ始めたのを見て、かおりちゃんもバナナを持ちました。先生もバナナを持ちながら、かおりちゃんに「バナナだね。黄色いね」と話しかけました。かおりちゃんは、「バアナ、バアナ」と言いながら、皮をむいて、おいしそうに食べました。先生は「バナナ、おいしかったね」と言いながら、片づけを手伝い始めました。
【子どもの心の動きや思いをとらえて・・・】
 私たちは、自分の思いを伝えるために、その手立てとしてことばを使っています。ですから、うまく話しことばが出てこないとコミュニケーションが難しいと思ってしまいがちです。
 しかし、
コミュニケーションのためには、伝える側の問題だけでなく、それを受け取る側の配慮がとても大切となります。まずは子どものおかれている状況を理解し、どのような気持ちを伝えようとしているのかということに目を向けてみましょう。
@子どものサインをみつける
 子どもは、ことばにならない形での表情や身ぶりなどで多くのサインを発しています。いろいろな活動の流れの前後を見つけることで子どもの気持ちが伝わってくることがあります。子どもの心の動きや考え、感じ方を受けとめながら先生がことばをかけてあげることで、子どもは「自分の思いが伝わった」と感じることができるのです。
A子どもの好きなことをみつけ、一緒に楽しむ
 言葉の発達の遅れに関心がいっていると、どうしてもことばでの問いかけが多くなりがちです。自由遊びの時間などに子どものすきなことを見つけてあげましょう。「先生も一緒にやりたいなあ」とことばをかけながら、子どもと一緒に好きな遊びを楽しんでみてください。そうすることで、先生の気持ちが自然に伝わり、子どもの自発的なコミュニケーション意欲が促されるでしょう。
 子どもの気持ちを受けとめながら対応していくことで、子ども自身が「人とかかわることは楽しい」と感じられる体験を積み重ねていきます。このことがことばの発達を促す第一歩になるのです。
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音声言語がない
 つとむくんは4歳。自閉症で、まだ話しことばがありません。給食の時間に好物がでると、勝手に友達の分も取ってしまいます。最近では、ちらっと保育士の顔や目を見るようになりました。
 つとむくんは自動車が大好きで、いつも自動車の絵本をながめています。先生がつとむくんの横に来て一緒に絵本を見ていると、つとむくんは先生の手をとって絵本の中の自動車を一台ずつ指さし始めました。先生は、「パトカー、消防車、トラック・・・」と一つ一つ答えていきます。つとむくんは、自動車の名前をじっと聞いているようです。
 給食の時間です。今日のメニューはつとむくんの大好きな唐揚げです。つとむくんは自分の唐揚げを食べてしまうと、友達の唐揚げにも手を出してきました。友達は、つとむくんに唐揚げを取られないかと、気が気でなりません。
 先生は、残しておいた唐揚げの入ったボールを、つとむくんに見せて「おかわりあるよ」と言いました。つとむくんが走ってきて手づかみでとろうとするのを素早く止めて、皿を前に差し出しながら、「お皿を出して『ちょうだい』って言うのよ」と声をかけました。つとむくんはそれを見ると、さっと自分の席に皿を取りに行きました。そして先生に皿を差し出して、「×△○・・・アイ」とお願いしました。先生は「『ちょうだい』って言えてえらいね。はい、唐揚げだよ」とにっこりしながら、つとむくんの皿に唐揚げを1個のせてあげました。
【話しことばに頼りすぎない方法で
     コミュニケーション手段を広げるために・・・】
 ことばのない子どものコミュニケーション内容は、初期の段階ではお腹がすいた、眠い、おしっこがしたいなど生理的な欲求についての内容がほとんどです。次の段階では、外に出たい、好きな遊びをしたい、もっとかかわってほしい、好きなお菓子を食べたいなど、対象となる物事の要求や行動の許可を求めるなど、内容が徐々に広がっていきます。
 話しことばのない自閉症児の多くは、
クレーン現象(大人の手を掴んで目的物に持っていく)で要求を示すのが特徴です。ですから、クレーン現象であっても十分に要求を満たしてあげる必要がありますし、人とのやりとりが楽しいと感じる経験を増やしていくことが大切です。まずは周りの大人が話し言葉に頼りすぎないで、意味を伝え合うコミュニケーションを心がけましょう。
 次の段階としは、簡単な身振りや具体物、絵カードなどを使ったコミュニケーション手段を教えていくのがよいでしょう。例えば、“お代わりがほしい”という要求であれば、まずは、両手を重ねて差し出す“ちょうだい”の身振り、またはお皿などの実物を持ってくることで要求を伝えるように導きます。それと並行して、話しかけも、皿に入れた唐揚げを見せて、「唐揚げだよ」というように、視覚的な材料に話しことばを短く具体的に添えて伝えるようにすると、子どもはそれを少しずつ理解するようになります。
 子どもの好きな遊びを一緒にしたり、スキンシップのある遊びをしたり、歌を歌ってあげたりするなど楽しくかかわる中で、子どものことばにならないわずかなサインを読みとり、要求や気持ちを汲み取っていきましょう。
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自分の思いや考えを伝えることが苦手
 尚くんは5歳児です。知的発達の遅れや聴覚障害などはないのですが、ことばをききとったり、自分の思いや考えをうまく相手に伝えたりすることが苦手です。先生の問いかけにも「えっと・・・」と口ごもったり、「わかんない」と答えることが多いです。
 朝の会の時間です。たくさんの友達に囲まれて、尚くんも一番前の席に座っています。先生は、「きのうはお休みだったね。みんな、何して遊んだの?」と尋ねました。友達は、口々にきのうの出来事を話し出しました。尚くんは、先生の声は聞こえたようでしたが、何を聞かれたのかわからない顔つきで、先生の方を見ました。先生も、そんな尚くんに気付きました。先生は、口に指をあてて、「シーッ」のサインを出しました。先生は、周りが静かになってから尚くんの所に行きました。そして、ひらがなが読める尚くんに、「きのう」、「あそんだこと」と書かれたカードを渡して、「きのうのことだよ。何して遊んだかな」ともう一度尋ねました。尚くんは、カードを見ながら、じっと考えている様子です。
 順番に友達がみんなの前で、昨日遊んだことを話していきます。どの子も、絵カードを見せながらお話ししています。次は尚くんの番です。先生は、「きのうはお休みだったね。尚くん、何して遊んだの?」ともう一度尋ねました。尚くんは、絵カードの中から、「公園」のカードを選んで、「えっと、ここ。ブランコ乗った」と答えました。先生は、「尚くんは、公園でブランコに乗ったね。ブランコで遊んだね」と言いました。友達の優ちゃんが、「うん。きのう、尚くんと遊んだ。一緒にブランコ乗ったよ。それから、お砂場で遊んだよ」と言いました。先生は、砂場の絵カードを尚くんに渡して、「それから優ちゃんと・・・」と続きを促すように話しかけると、尚くんは「優ちゃんとお砂場で、お山作った」とうれしそうに話しました。
【きくこと・はなすことのために・・・】
 子ども達の中には、尚くんのように、知的発達障害や感覚障害、運動障害などの障害がないのに、コミュニケーションにつまずきを示す子ども達がいます。それは、中枢神経系に何らかの機能障害があるためと考えられています。このような子ども達には、以下のようなタイプがあり、それぞれに配慮が必要になります。
@ 音声をきき分けることが難しい、あるいは、音声としてきこえていても意味のあることばとして受け取れないタイプ
話す前に注意を促してから話しかける
音声だけでなく、動作や絵や文字などの視覚情報を同時に提示する
難しい言い回しを使わず、短いことばで順序よく話す
聞き返して確認する
A 語いは豊かなのに、自分の思いや考えをまとめて話したり、適切に答えたりすることができなかったり、脈絡のない会話になってしまうタイプ
自由に話せる雰囲気の中で、身近な話題をとりあげて話す楽しさを体験させる
話につまったときは、ことばを補ったり代弁したりして、適切な表現を教える
問いかけに対する答えの選択肢をいくつか準備しておく
「いつ、だれが、どこで、なにを、どうしたの」のカードを用意しておく
B 両方のつまずきを併せもつタイプには、@とA両方への対応を併せるとよいでしょう。
 いずれのタイプも、話しかけを確実に受け止めることが難しく、音声と意味を結びつけて捉えることがあまり得意ではありません。また、うまく会話ができないことで人とのかかわりに消極的になったり、情緒的に不適応を起こして、攻撃的なことばを使ったり、暴力的な行動を示してしまう場合もあり得ます。周りが、子どもを温かい心で受け入れて支えとなりながら、それぞれの個に応じたきめ細かい配慮をすることが必要です。
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興味のあることはよく話すのに、会話は一方通行
 修くんは、高機能自閉症の5歳の男の子です。自動車が大好きで、図鑑で調べたことを得意げに話してきたりしますが、会話はかみ合わないことが多いようです。
 修くんは毎朝、登園してくると園の前を走る自動車を窓から眺めています。先生が「修くん、おはよう」と声をかけると、「一番売れてる車は何?車は何で走るか知ってる?ガソリンだよ」などと一方的に話し続けます。
 自由の遊びの時間にも「車は原動機を装置し、その動力によって車輪を回転させて動く」などと呟きながら、お気に入りのミニカーを一列に並べていました。一緒に遊んでいた先生が「修くんは自動車にくわしいんだよね」と言うと、「くわしいの?何、くわしいの?」と会話はかみ合いません。先生が「先生の車は幼稚園の前に止まっているよね」と言うと、修くんは「幼稚園の前、駐車禁止」と返しました。そこで先生は、「先生の家の前も駐車禁止」と言うと、修くんは「ぼくの家の前も駐車禁止」と言ってにっこりしました。
 修くんは、給食が済むといつも片付けをしないまま、自動車を見に窓際へ行ってしまいます。
先生は、片づけが済んでからということを繰り返し言い聞かせてきましたが、いっこうに効果はありませんでした。そこで先生は、修くんの大好きな自動車の話でのやり取りを手がかりに、給食の片づけができるような方法を考えてみました。まず、自動車の写真を4枚に切り取り、裏にマグネットを付けました。そして、修くんがお皿を片づけると1枚、牛乳びんを片づけると1枚と、方づけを終える毎に黒板に一枚ずつ貼っていくようにしたのです。4枚そろって自動車が完成したら、自動車を見に行ってもよいという約束をしました。修くんはこの課題に興味を持って取り組み、まもなく給食の片付けができるようになりました。
【かかわりをもち、心を通わすために・・・】
 修くんのように高機能自閉症と呼ばれる子ども達がいます。知的な遅れがなく、ことばの発達も比較的良好なことから、人とのかかわりも良いように思いがちですが、「社会性の障害」、「コミュニケーションの障害」、「想像力の障害(こだわり)」という自閉症に共通した特性をもっています。つまり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちをくみ取ったりすることが苦手で、会話によるコミュニケーションが難しいのが特徴です。しかし、一方で目からの情報処理が優れているといった特徴もあります。このような子ども達には、自閉症の特徴を理解し、その特徴をいかしてかかわっていくことが大切です。例えば、修くんの場合、大好きな自動車の話題に先生が共感していくことで、ことばのやり取りができていきます。このように、興味・関心を示しているところからコミュニケーションの糸口を見つけていきましょう。
 また、給食の片づけが一つ終わる毎に自動車の写真が完成に近づくので、修くんは、「車が完成すれば遊んでもいい」ということを視覚的に捉えて、活動に見通しをもてるようになりました。このように、
子どもが指示を理解し、見通しをもつことができるように絵カードや写真など視覚的な情報を活用するのも一つの方法です。
 高機能自閉症は、ことばでのやり取りが成立しているように見えても実際には、ことばの使い方や意味のとらえ方にズレがある場合が多いようです。これは、ことばの意味を理解することや、比喩表現、慣用句などの意味がつかめないことなどから生じるつまずきと考えられます。その場その場で、ことばの使い方や意味を伝えていくことも大切でしょう。
〔高機能自閉症:一般的には知的発達の遅れがない(IQ70以上)自閉症を示します〕
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ことばの遅れの状態を保護者にどう伝えるか
 ゆりちゃんは3歳。先生は、同年齢の子と比べてゆりちゃんのことばの発達が遅れていることが気がかりです。先生は、ゆりちゃんの状態をお母さんにどのように伝えたらいいのか悩んでいます。
 先生は、ことばの遅れが云々ということをお母さんに話すことよりも、先生自身とお母さんとの信頼関係を築くことがまず必要ではないかと考えてました。そして、お迎えの時などには、お母さんと話す機会をなるべく多くもち、「今日、ゆりちゃん、私と一緒に○○を運ぶお手伝いを頑張ってしてくれたんですよ」などと、ゆりちゃんの園生活での頑張りや良さを伝えていくようにしました。お母さんは、どちらかと言えば無口なタイプの人でしたが、家庭でのゆりちゃんの様子なども少しずつ話してくれるようになってきました。
 このような対応を続けていく中で、ある日、先生は思い切ってゆりちゃんのことばの発達が気がかりなことについて、園での様子をまじえて話してみました。すると、お母さんは「以前から、お姉ちゃんと比べて発達が少し遅れているのではないかと感じていたこと」や、「自分の育て方が悪かったのではないかと悩んでいたこと」、「誰かに相談した方がいいのではと思いながらも、お父さんやおばあちゃんに気兼ねして言い出しにくかったこと」などを話してくれました。先生は、お母さんの気持ちを受けとめながら「これからもお母さんと協力しながら、ゆったりとゆりちゃんとかかわっていきたいこと」や、「そのためにも専門機関との相談なども進めていってはどうか」といったことについて話してみました。
 その後、お母さんは専門機関で相談を受け、ゆりちゃんはそこで定期的にことばの指導を受けるようになりました。専門機関では、ゆりちゃんと同じようにことばの発達に遅れのある子どもをもつお母さん方と話す機会もあるようで、お母さんの不安は少しずつ和らいでいるようです。園の先生も、専門機関の先生と連絡を取り合い、そこで得たアドバイスを日頃のかかわりに活かすよう努めています。
【保護者との関係づくりを図るために・・・】
 これまで紹介してきた事例のように、ことばの発達の遅れといってもその状態や原因は様々ですが、多くの場合、保護者とも良好な関係を作りながら対応していくことで、子どもの状態は良い方向につながっていくものです。しかし、園と保護者との間で子どもの捉え方や養育の方針にズレがあったり、お母さん自身は子どもの気がかりな状態に気付きながらも、家族の理解が得られなかったり、先生に相談しづらかったりして悩んでいることも少なくありません。子どもの状態によっては、専門機関を利用していく方がよい場合がありますが、どのように専門機関につなぐかということは難しい問題です。
 
まずは、園が困っているとか保護者の養育を非難するということではなく、子どもの少しでも良いところや頑張っていることを伝えていくことです。その上で、子どもの状態を正しく伝え、場合によっては専門機関を利用することが、子どもの成長を一緒に考える上で必要であることを理解してもらいましょう。誠意ある態度と配慮で保護者との信頼関係を築いていけば、きっと子どもの理解とよい支援ができていくのだと思います。
 また、保護者との話の中では、「自閉症」とか「知的障害」などの診断的な言い方はひかえましょう。園と保護者がともに手を取り合うことが実感できれば、保護者もきっと安心するはずです。
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参考文献・引用文献
「すこやかのびのび子育てQ&A」大揚社
「保育者と母親のための保育相談室-障害のある子どもたち-」中央法規
「保育を支援する発達臨床コンサルテーション」ミネルヴァ書房
「高機能自閉症、アスペルガー症候群入門-正しい理解と対応のために-」中央法規
「アスペルガー症候群と学習障害」講談社+α新書
「自閉症ガイドブック シリーズ1 乳幼児偏」日本自閉症協会
「子どもがどもっていると感じたら」岐阜吃音臨床研究会パンフレット

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