シリーズ研修

多動:じっとしていられない 乱暴:友達に乱暴する
不器用:動作がぎこちなく手先も不器用 情緒不安:必要以上にまばたきをする
自傷:嫌なことがあると自分の手を噛む こだわり:集団活動ができない
保護者との相談:気がかりな子どもの保護者をどのように支えるか
多動:じっとしていられない
 ゆうちゃんは4歳の男の子。興味が転々と移り、少しもじっとしておらず、ここで遊んでいたかと思うとすぐに他の遊びに移ってしまいます。興味がないと集団に参加せず、部屋を出て行ってしまったり、好きなことをして遊んでいたりします。
 今日はお誕生会です。みんなは椅子に座っているのに、ゆうちゃんの姿が見えないので、先生はまだ園庭で遊んでいるゆうちゃんを迎えに行きました。
 会が始まって6月生まれの子が前に出て、先生から冠をもらい始めました。それを見ると6月生まれのゆうちゃんもさっと前に出てきました。ゆうちゃんは一番にもらったお友達の冠を取ろうとしました。先生はそれをみて「ゆうちゃんのもあるよ。はいどうぞ」と言ってゆうちゃんの頭に冠をのせてあげました。ゆうちゃんは満足して、今度は大好きなすべり台のところに行こうとしたので、先生が「次はゆうちゃんの大好きなお歌を歌うから、また戻っておいで」と声をかけました。ゆうちゃんは「うん」とうなずいて、すべり台のところに行って遊び始めました。
 前奏が始まると、ゆうちゃんは戻ってきてお友だちの間に入って、みんなと一緒に誕生日の歌を元気よく歌いました。みんなに「ゆうちゃん、お誕生日おめでとう」と言ってもらい、とてもうれしそうでした。
【活動に参加しやすくするために・・・】
 ゆうちゃんは集団活動にはなかなか参加できませんが、先生は少しでもみんなと一緒に楽しめたらいいと思っています。集中が続かずに集団から離れても、みんなの活動を意識していることを知っているので、ゆうちゃんのやりたいことを認めてあげ、参加できそうな活動には声かけし、友だちと一緒に楽しく活動できる経験を増やしているのです。
 このように、気が散りやすかったり、目に入ったものにつられて次々に動いてしまったり、なかなか活動に集中できないといったお子さんには、そのような行動を叱るよりも、
うまく行動できたときにほめてあげることが大切です。小さなステップで行動の目標を設定し、子どもが「できた、楽しかった」という成就感がもてるよう工夫しましょう。
 また、自閉症やADHDなどの障害があって行動に落ち着きがないお子さんには、周囲の刺激を少なくしてあげることも一つの方法です。今何をするのかを分かりやすくして、他の刺激をなるべく少なくすることで、活動に取り組みやすくなり、注意の集中も持続しやすくなるのです。
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乱暴:友達に乱暴する
 あきらくんは5歳の男の子です。落ち着きがなく、乱暴です。友達とのトラブルが絶えず、いつも他の子があきらくんに噛みつかれたとか、髪をひっぱられたとか言ってきます。相手が嫌がってもやったりします。注意しても聞きません。
 幼稚園では、みんなでこいのぼり作りをしています。突然、あきら君は、隣の子が使っているはさみを勝手に取りました。隣の子が怒って文句を言うと、相手の髪をひっぱりました。あきら君は興奮状態です。先生は別の部屋にあきら君を連れて行き、落ち着くのを見計らって「はさみがなかったんだね。はさみ貸してほしかったんだね」と言いました。そして、部屋に向かいながら「髪の毛ひっぱられて痛かっただろうからお友達に謝ろうね」と言いました。あきら君は素直にうなずいて隣の子に謝りました。そして、先生の所へはさみを借りにいきました。
 その後、あきら君のおうちでの様子が気になった先生は、お迎えの時におうちでの様子を聞いてみました。すると、おうちではお父さんが怒りっぽくて、あきらくんをよく叩くということです。翌週、先生はお父さんに保育園に来てもらってあきら君の様子を伝えました。そして、あきら君が何か悪いことをしたとき、保育園ではあきら君の気持ちを理解した上で、どうしたらいいのかを話していると伝えました。
 その後も何度か乱暴な行動がみられましたが、その度に乱暴な行動にでる理由を考え、「『貸して』と言ってから借りようね」とか、「叩いたら『ごめんなさい』って謝るといいんだよ」と話しています。あきら君がお友達と仲良くできた日には、お約束カードにお気に入りのウルトラマンのシールを貼ってあげ、シールが5個たまったら、先生のおひざの上で大好きな絵本を読んであげることにしています。
【感情をコントロールさせるために・・・】
 落ち着きがなく乱暴な子は、カッとなったら自分の気持ちをコントロールすることができません。また、ことばの力が不足しているため、自分の思いをことばで表現することができず、すぐに手や足が出てしまう子もいます。このような子どもの場合、一度興奮状態になると何を言っても聞く耳をもちません。一度その場から離し、どうしてそのような乱暴な行動にでるのか、その背景を考え理解してあげた上で、友達に乱暴するのはいけないことだとよく話して聞かせることが大切です。社会性が未熟な子の場合、友達への働きかけ方を知らない子が多いので、「貸して」といって借りるとか、「入れて」と言って仲間に入るなど、日常生活の中で見本を見せながら自然に教えることも大切です。その上で、よい行動の時にはきちんとほめ、その行為を評価してあげることが大切です。
 また、その子の家庭環境について保護者と話していくと、子どもが何かよくないことをしたときにいけない理由を説明したり、正しい行為を教えたりせずに、躾と称して叩いたりしている場合がよくあります。子どもを叱るとき、体罰や子どもの人格を否定するような叱り方はよくありません。保護者にも園での様子を話し、子どもへの望ましいかかわり方について理解してもらうとよいでしょう。  いずれにせよ、日々の細やかなかかわりの中でことばの力をつけ、ことばで自分の思いを表現したり、気持ちをコントロールできるようにしていくことが大切です。
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不器用:動作がぎこちなく手先も不器用
 まりちゃんは5歳。特にマヒがあるわけではないのですが、製作活動でははさみやのりががうまく使えません。また、体操やお遊戯でもぎこちない動きをするなど、何をさせても動作が遅く、不器用です。
 子どもたちは、七夕の飾り作りをしています。まりちゃんも、はさみを使って色画用紙を切っています。先生は、まりちゃんがはさみをうまく使えないことに配慮して、直線的に切っていける短冊作りをしてもらうことにしました。切っていく線は2cmくらいの幅で太く書いてあげています。まりちゃんの切るスピードはとてもゆっくりです。でも、先生は、まりちゃんが数多く切れることより、ゆっくりでいいから、一つひとつ、丁寧に切っていけることを大切にしていこうと考えています。まりちゃんは一つ切り終えると「先生、ほら切れたよ!」と言って見せに来ました。形は、決してきれいとはいえませんが、先生は「上手に切れたね。すごいね!」と言って頭をなでてほめてあげています。まりちゃんは、ほめてもらえたことが嬉しくて、また次の色画用紙を取り出して切り始めました。
 次に、なわとびの場面です。まりちゃんも、友だちの中に混じって跳ぼうとしているのですが、うまく回すことができません。縄を回す動作と跳び上がる動作のタイミングもズレてしまうようです。そこで先生は、インターネットで調べた資料を参考にして、縄の代わりにフラフープの一端を切ったものや、新聞紙を巻き付けたなわとびなどを使った練習を取り入れることにしました。まりちゃんは、回す感覚や跳び越す感覚を徐々につかんでいくようになり、今では、うまくいくと3回ほど続けて跳べるようになってきました。
【不器用というレッテルをはらないために・・・】
 ひとことで不器用といっても、全身運動や手先の動き、日常生活動作、書字や絵、対人関係、コミュニケーションなど、様々な場面が考えられます。また、その原因も単に経験不足ということだけでなく、目と手あるいは身体全体の動きをコントロールする力が未発達であったり、自閉的傾向やLD、ADHDの子のように対人関係やコミュニケーションが苦手だったり、見たり聞いたりしたことを受けとめて整理し表現するための脳の機能がうまく働かなかったり、注意力が不足していたりする場合など、様々です。
 原因がいずれにあるにせよ、不器用な子どもたちは、新しい場面や苦手な活動に出合ったとき、どうしても消極的になったり、失敗したりすることが多くなります。失敗に対して周りの人からマイナスの評価を受ければますま
す劣等感が強くなり活動を避けようとする悪循環に陥っていきます。
 したがって、
不器用な子どもたちとのかかわりに際しては、ま
ず、「どこまでできて、どこからできないのか」「苦手な課題の中でも、比較的できることは何か」などを見極めることが大切です。その上で、「本人のできること」「できたという喜びを味わえること」を園生活全体の中にたくさん盛り込みながら、自信をつけてあげましょう。さらに、単純で見通しのもちやすい活動から複雑で多様な活動へと、子どもの状態に合わせて課題や教材・教具を用意したり、スモールステップで指導したりすることも重要です。

 活動の楽しさを十分味わえるように配慮しながら、焦らず気長に取り組んでいきましょう。
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情緒不安:必要以上にまばたきをする
 しゅうくんは5歳。おとなしく、何をするにもペースが遅い子です。先生は、しゅうくんが朝の会でまぶたをしきりにパチパチしていることが気になっていました。でも、しゅうくんは気にしていない様子です。
 幼稚園では、来月の発表会に向けて先月から合奏の練習をしています。
 しゅうくんも鍵盤ハーモニカを練習していますが、他の子どもたちとうまく合わせることができません。それで先生は、自由遊びの時間にもしゅうくんを呼んで個別に練習をさせていました。また、お家への連絡帳にも「少し練習させてください」と書きました。しゅうくんの鍵盤ハーモニカはだんだん上手になってきましたが、少し前から頻繁にまぶたをパチパチするようになりました。
 迎えに来たお母さんに、「しゅうくんはピアニカが上手になりましたよ。お家でもずいぶんがんばったんでしょうね」と聞くと、お母さんは、「なかなかうまく弾けないので、毎日1時間以上練習させていたんですよ」と話してくれました。また、しゅうくんのまばたきについては、「少し前から頻繁にパチパチするようになったので心配していたんです」と顔を曇らせました。
 先輩の先生に相談したところ、鍵盤ハーモニカの練習が負担になっているのではないかと言われ、先生は、自由遊びの時間の練習をやめて、しゅうくんが好きなボール遊びや水遊びを思い切りできるようにしました。また、お母さんには、「しゅうくんには、鍵盤ハーモニカの練習が負担になっていたのでしょうか。それがまばたきなどのチック症状を引き起こしているのかもしれませんね」と話しました。そして、まばたきが気になっても、叱ったり、強く注意したりしないようにしてもらいました。しばらくするうちに、しゅうくんのチック症状は気にならない程度になりました。
【精神的なストレスを取り除くために・・・】
 何らかの精神的ストレスを感じると,本人の意志に関係なく、無意識に身体の様々な部分が動くのが「チック症状」です。「まばたきをする、首を振る、肩をすくめる」といった「運動性チック」と、「舌打ちをする、咳払いをする、鼻を鳴らす」といった「音声チック」に分けられます。同じ動きが何度も繰り返されるのが特徴です。不安や緊張を強く感じているときに出ることが多いようです。好きなことをやって気持ちが集中しているときや睡眠中に起こることはほとんどありません。年齢が上がるにしたがって症状は軽くなる場合が多いので過度に心配する必要はありません。家族や周囲の人々がチック症状について理解し、日常生活の中で見守ることが基本です。
 特に注意したいのは、チック症状が原因で本人が情緒不安定におちいったり、いじめにあったりすることです。チック症状は止めさせようとするよりも、
どういうときに症状がみられるか、どういうときにひどくなるかを観察し、ストレスを取り除くことが大切です。本人の不安な状況を理解し、「叱らない」で温かく見守ってあげましょう。多くは自然に治っていきますが、中には心理的な理由もなく症状が次々に変化したり、あるいはひどくなったりすることもあります。症状が重い場合や本人が気に病む場合は、専門の医療機関に相談するのもよいでしょう。まずは、子どもの出しているサインに気づき、精神的に安定できるように配慮することが大切です。
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自傷:嫌なことがあると自分の手を噛む
 たっくんは3歳の男の子。ことばが遅れています。思ったことが相手に伝わらなかったり、嫌なことがあると、自分の手を思いっきり噛みます。止めさせようとするとますます噛み、パニックになってしまいます。
 たっくんが、砂場で遊んでいる所へお友達がきて一緒に遊び始めました。次々にお友達が増え、仲良く砂山を作っていたように見えたのですが、しばらくすると、たっくんは立ち上がって、自分の手の甲を噛んでしまいました。目はつり上がり険しい表情をしています。
 先生は、すぐ砂場へ行きました。お友達は特別変わった様子もなくシャベルで穴を掘っていました。けんかをした様子はありません。不思議に思いながらももう一度よく観察すると、たっくんのお気に入りのシャベルをお友達が使っていました。先生は、たっくんをやさしく抱き上げその場を離れました。そして体をゆらしたり、膝の上に乗せたりして、気分を落ち着かせた上で、「あの赤いシャベルが 欲しかったんだね」「手も 痛いよね」と優しく話し かけました。
 しばらくすると、たっくんは手の甲を口から放 し、表情も柔らかくなってきました。先生は「『シャベル貸して』って言おうね」とたっくんを促し、たっくんと一緒にそのお友達の所へ行きました。
【まずは気持ちを受け止めて・・・】
 小さな子どもやことばが発達していない子どもは、自分ではどうしようもない気持ちやいらいらを自分の体にむけて、自傷という形で表すことがあります。
 では、どういう時に自傷は起きるのでしょうか。
 目の前で嫌なことがあったり、がまんできないことがあったりする場合が一番多いと思われます。また、きっかけになった出来事は些細なことでも、それまでに心の中がストレスでいっぱいになっていた場合や以前の嫌な体験がよみがえった場合にも起きます。その子にとって不快な感覚を感じた場合もあるでしょう。
 対応としては、自傷を始めたら力ずくで止めようとしないことです。力ずくで止めようとするとかえって力を込めてその行為をすることになります。余計に執着して長引くことにもなりかねません。また、別の形で自傷が表れるかもしれません。
 
自傷が始まったら、抱きかかえたり体を揺すったりして、他の感覚でその時の嫌な気持ちを変えるのがよいでしょう。また、頭を床にぶつけるような場合は座布団を用意するなど、自分の体へのダメージが軽くなるようにしてください。そして先生が子どもの気持ちを推測できる場合は、その状況を的確にとらえ、ことばで返してあげましょう。
 
特に大事なのは、子どもの辛い気持ちを受け止め、「だいじょうぶ、先生はあなたの気持ちがわかるよ」と子どもの側にいることです。いつもと同じように好意的な態度でかかわってあげてください。
 ことばを理解し、自分の気持ちをことばで伝えたり、相手の行動やその場の状況を理解できるようになると、自傷は減っていきます。
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こだわり:集団活動ができない
 ひろちゃんは5歳。自閉症の子どもです。からくり時計が気になって仕方ありません。登園するとすぐに時計の前に走っていきます。一旦お部屋に戻ってからも、お集まりの時間や着替えの途中に、からくり時計を見に行きます。
 ひろちゃんは、以前から数字にとても興味がありました。少し前には日めくりカレンダーが気になっていました。
 カレンダーから少し興味が薄れたかなと思っていると、今度はからくり時計です。この時計は、最近ホールに取り付けられたものですが、最初は、大勢集まってきて見ていました。しばらくして、みんなは集まらなくなりましたが、ひろちゃんだけはずっと時計の前から離れません。日めくりカレンダーのときは、先生がめくった後は、お部屋に戻ることができましたが、からくり時計はそうはいきません。毎時刻ごとに曲が奏でられ、文字盤の仕掛けが終わるまではどうしても離れられません。
 1時間毎に時計の前にやってくるひろちゃんに、先生が近づいていって一緒に見ることにしました。よく聴いてみると、童謡からクラッシックまで、時刻毎に決まった音楽が聞こえてきました。先生は、保育園でも歌った曲があることに気がつき、教室のオルガンで弾いてあげることにしました。オルガンを弾き出すと、ひろちゃんは「アレッ」と驚いたような表情でオルガンに近づいてきました。先生はさらにおもちゃの時計を持ってきました。そうすると先生が弾いた曲を聴いて、ひろちゃんはその時刻に時計の針を合わせました。先生は「そうだね、10時だね、よく知ってるね」とほめてくれました。みんなも、「スゴーイ」とか「当たり!」と言ってくれました。ひろちゃんも少し得意顔です。
 園外保育の日のことです。先生は、ひろちゃんが出発の時間に時計から離れられなくなることを予測して、時計の針を少し進めておきました。時報の仕掛けが終わると、ひろちゃんは、納得して出かけることができました。
【こだわりを困ったこととしないために・・・】
 「こだわり」は、自閉症の診断の手がかりになるほど、自閉症の子どもにとって基本的な特徴です。いろいろなことにこだわるのは、本人にとってそうしてしまう理由があるからなのです。自閉症の子が数字に興味をもつのは、人間関係をとっていくのが苦手な分、規則正しく並んでいる数字はとてもわかりやすい世界だからだと思われます。このように、その時期に「こだわり」がどういう意味をもっているのかを見極めることが重要なのです。ここでは先生が、「こだわり」をうまく受け入れて、子どもとのかかわりを深め、信頼関係をつくっています。また、子どもの気持ちを考えながら、園の活動に合わせられるような工夫をしています。
 
「こだわり」が、危険を伴うことでなければ、困ったこと、奇妙なことと考えて心配しすぎないことです。最初は、大人の方から子どもの気持ちに合わせていきましょう。まず受け入れて、よいかかわりをしていくことで、将来自傷行為やパニックといった深刻な問題になることも避けられるでしょう。
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保護者との相談:気がかりな子どもの保護者をどのように支えるか
 圭くんは3歳児です。いつも動き回っていて、仲間からはみ出してしまいます。最近、軽度の発達障害であると診断され、保護者がショックを受けています。保育士として保護者をどのように励まし、園での生活をどのように支えていけばよいでしょう。
 圭くんのお母さんは、医療機関で圭くんが発達障害があると告げられたことのショックに併せて、家族から「仕事に追われてかまってやらなかったからだ」と責められ、「私の育て方が悪かったんです」と何度も先生の前で繰り返します。先生は何とかお母さんを支えるためにも圭くんのよいところをたくさん伝えて支えてあげたいと思いました。
 お集まりの時間、圭くんはお友だちと一緒にプレイルームにいられず、園庭のブランコに乗りはじめました。先生が迎えに行くと、ブランコの上に立って漕ぐ姿を得意そうに見せてくれます。先生は、「圭くん、立ってブランコできるようになったんだね、すごい!」と声をかけました。圭くんはニコニコ笑いながらブランコから飛び降りて、次は砂場へ走っていきました。先生は「お山ができたらお友だちのところへ戻ろうね」と約束をして、しばらく圭くんと一緒に遊びました。砂山ができると圭くんも納得したようすで先生とプレイルームに戻ることができました。
 降園時、お母さんは不安な様子で、「うちの子ども、今日はちゃんとしていましたか」「みんなと一緒にいられましたか」などと矢継ぎ早に質問をしてきます。先生はお母さんに、「圭くん、ブランコに立って乗れるようになりましたね」「砂場で約束をしたら、ちゃんとプレイルームに戻ることができましたよ」と圭くんの活動の様子の中で、いい場面を伝えました。お母さんは、うれしそうな表情で「すごいね」と圭くんをほめてあげました。圭くんもとてもうれしそうでした。
【保護者とのよい関係をつくるために・・・】
 幼稚園や保育園などの集団の場で、行動がクローズアップされてしまうタイプの子どもたちがいます。先生たちからは「集団になじめない」とか「集団に溶け込めない」などと表現されることの多い子どもたちです。ところがこれらの行動は家庭ではあまり問題にならないために、先生から指摘されて初めて問題であることに気付く場合があります。保護者は一度気になり出すと、「自分の養育に問題があるのか」「愛情が足りないのではないか」などと悩んでしまいます。子どもの小さな頃を振り返り、いっそう自分を責めてしまうこともあります。逆に、周囲の否定的な目や非難を避けようと、子どもを強く叱責したり習い事にいくつも通わせて社会性を身につけさせようとしたりする保護者もいます。しかし、保護者の必死の努力にもかかわらず状況はよい方向に向かわないことが多いようです。
 このような悪循環を避けるためには、
保護者の心に目を向けながら子育ての支援をしていく必要があります。「集団になじめない」のは育て方に原因があるのではなく、子どもの発達のどこかに弱い部分があり、特別な配慮を必要とする子どもであるという認識を周囲の大人共通してもつことが大切です。親に原因を帰して幼稚園や保育園ではどうしようもないと思いこむのではなく、園での工夫で少しずつ問題を解決したり、子どものニーズにあったかかわり方を見いだしたりして、保護者に伝えていく機会を作りましょう。大切なのは、子どもの現在の発達の状況を含めて、その子どもの苦手な部分、得意な部分をよく理解することです。また、その子どもが気がかりな行動をとってしまう理由をよく理解することも必要です。保護者からは、家庭での過ごし方やどのようなかかわり方をするとパニックにならずにすむかなど、積極的に情報を提供してもらうとよいでしょう。できれば、担当の先生だけでなく、園全体の理解につなげていけるとよいでしょう。
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参考文献・引用文献
「すこやかのびのび子育てQ&A」大揚社
「保育者と母親のための保育相談室−3歳児から就学まで−」中央法規
「保育者と母親のための保育相談室−障害のある子どもたち−」中央法規
「可能性ある子どもたちの医学と心理学」ブレーン社
「『わがまま』といわれる子どもたち」すずき出版
「自閉症ガイドブック シリーズ1 乳幼児偏」日本自閉症協会
「発達 NO.51 特集:不器用な子への援助」ミネルヴァ書房

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